元野良猫ミーのこと

 ミーは14、5歳になる元野良猫、前地域猫、そして今は飼い猫である。メスで私たち(私よりも妻のかかわりのほうがずっと長いし強い)が最初に出会ったのはミーが3匹の子ネコを我が家(アパート)の玄関前にくわえて運んできたときだ。以来、いつの間にかアパートの地域猫として一緒に暮らすようになった。子猫のうち一番小さい1匹は貰い手があり、でかくて兄貴分の1匹は残念ながら事故死、一緒に事故に遭ったクロは大手術の末に一命を取り留めて、ミーと親子ずっと仲良く暮らしてきた。
 世の中、猫好きも多く、保険の利かない治療費や、その後の2匹のえさ代のほか不妊手術費など出し合いながら、猫好きではない私も猫のいる生活のおもしろさというのか楽しさみたいなものを味わった。
 しかし、年月は早く、一番ミーとクロを可愛がっていた隣の奥さんはがんで亡くなり、我が家が後を継いできたのだけれど、3年前にはアパートの取り壊しが決まり、どうしたものか思案していたら、世の中うまくしたもので、近くの猫好き夫婦が2匹まとめて面倒をみてくれることになった。
 ミーとクロはここで飼い猫として、飼い主夫妻にとことん可愛がられ、幸せに過ごしていたのだが、先日、ミーが突然姿を消した、との連絡があった。6人ほどの「関係者」であちこち探したが発見できなかった。事故の情報もなかった。
 猫の14、5歳といえば高齢であり、厳しい生活を経験した野良猫となればなおのことと思うと、「暑さもあって少し弱っていた」という話だったので、死期を悟ってすぐ裏手の山の中にでも行ったのかなどとも思ったりしている。先方の奥さんと我が妻はしんみりとミーの思い出話などしている。
 生まれつき耳が悪いせいか、ほとんど声を発せず物静かなミーに対して息子のクロはもう人懐こく賑やかで、この対照的な性格の一方が消えたことで、一層寂しさが募る。(福士)