金木犀とザンビアと

 つながりそうにないことを上手くつなげるのが編集者の腕だ、と言ったのが米国の一流雑誌の名編集長だ。それには全く及びそうにないが、ちょっと挑戦。
 30代はじめの記者時代の今頃の季節だった。金木犀が好きで、その香りをテーマにコラムを書いたら、何人もの読者や後輩、先輩記者たちからも褒められちょっといい気分になっていた。そのとき、よく知る老名医が「よかったよ。でもね、匂い過敏症というのがあって、今の季節がとりわけ嫌だという人もいるというのを知ったうえで書いていたら、きっともっと良い文章が書けていたかもしれない」と、わざわざ感想を伝えてくれた。ぼくは反対側のあることを普段から意識するように努めていたのだが、改めてその大切さを思い知った出来事だった。
 これと反対のようで似たことを南部アフリカの途上国ザンビアで研究調査をしている生態人類学者(友人の友人)から教えられた。
 この国の平均寿命はまだ40歳代と聞く。貧しい中にも携帯電話が普及してきている。現地の人からの情報収集が研究の質を左右するということで現地サポーターが彼の電話番号を何人もの人に教えたことから事は始まる。
 翌日から彼の携帯に「ワン切り」が殺到したのである。日本人が珍しくて面白半分のいたずらでかけてきたと思った彼は無視することにしたのだそうだ。すると、中には10回近くもかけてくるのもあって、たまりかねて相手にかけ直し、「いたずら電話はしないでくれ」と抗議したそうだ。すると、逆に「なぜ早くかけ直してこないのだ」と相手は怒りだした。
 事情はこうだ。貧しい人の多いこの国では代金前払いのプリペイド契約が主流で、貧しい人は長話はできないから自分より金持ちにかけるときはワン切りが普通。お金持ちからかけ直すのがマナーみたいなもので、日本の常識は当てはまらないのだ。現地のことを知りたがっている金持ちの国から来た日本人だからワン切りがあったら、すぐに返事をしてお礼を言うべきことだったのである。裏表・上下などいろんな角度から生活をみなければ、なかなか人は理解できないわけだ。      福士