久しぶりで、すみません。 ? ! ○・●・◆

 読書好きでもないけれど、最近、有名な作家も含めて長いばかりで何を言いたいのか分からななかったり、面白くも悲しくもない小説が多くはないだろうか。小説家に限らず、僕ら編集者やライターの世界、文字で食べている分野の人に共通しているかもしれない。変化の速すぎる時代状況の中で、共通項が出来にくいから余計そうなっているようにも思える。
 かつて、『レ・ミゼラブル』を書き終えて旅に出たヴィクトル・ユーゴーは、本の売れ行きが気になって出版社に手紙で問い合わせた。その文面はたった1字 「?」だけ。これに答えた編集者の返信も「!」のみ。二人の間では、これだけで「本の売れ行きは、どんなぐあいだろうか」「先生、好評、好調ですよ。ゆっくり旅を楽しんでください」といった具合の会話がはずんでいたのだ。
 1950年代半ば、日本の南極観測隊が決死の覚悟で11人が越冬した時も、こんなことがあったのだと聞いた。日本との通信手段は、まだモールス信号での通信だけで、それも業務中心ということで新年のあいさつも出来るだけ短くというのが安全を祈る家族への注文だった。
 家族からのモールス信号の手紙を受け取った隊員たちは、その文面を紹介しあったのだそうだが、最後に照れてなかなか読み聞かせてくれない隊員がいた。その彼もみんな求めで、ようやく彼の口からでた言葉はわずか3文字、「あ な た」だった。
そんな文章を書きたいと思う。           福士