キョウチクトウの思い出

 暑さとともに、キョウチクトウが、ピンク、白、そしてときには黄色の花をいっぱいに咲かせている。そこで、キョウチクトウの花に託した人々の思いが、地域によって、地域の人々の背負ってきた歴史によって大きく違ってくるという話を少し。
 この花に「平和の実現」を託したのは広島市民だ。生命力の強いキョウチクトウが、「100年間は草木も生えない」などといわれたなかでいち早く芽を「復活」させたことへの喜びの表現でもあったのだろう。
 「差別の象徴」として抗議の気持ちをこめたのは、かつての被差別地区で解放運動に取り組んだ方たちだ。観光都市で売り出そうと考えた行政などが、よく枝葉をのばすキョウチクトウを地区の周囲に植え、改善されないまま放置されてきた老朽住宅など地域の生活環境を隠そうとした歴史があったからである。問題を根本から捉えて考え、解決を図ろうとするのではなく、目先だけ何とかしのいで、といった発想は、今もこの国と人の中に根強く生きてはいないだろうか。
 「公害問題の象徴」と捉えたのは、かつて公害問題が噴出した工業地帯で公害に苦しみながら克服のために戦った人々である。公害に強いキョウチクトウが緩衝帯にたくさん植えられたからである。
 こうした人間の熱い思い、また生々しい歴史を知る人はどれほどいるだろうか。戦争の歴史も含めて忘れてはならない歴史、伝えていかねばならない歴史のあることをキョウチクトウは私に毎年思い出させてくれる。
(福士)