十勝の牧場のオヤジが語る魅力の物語


僕の尊敬する友人、片岡文洋さんは北海道・十勝で500頭の肉牛を飼う「夢がいっぱい牧場」の創設者(会長)である。その彼が、ミネルヴァ書房の「いま日本の≪農≫を問う」シリーズの最新刊⑧『おもしろい! 日本の畜産はいま』(6人の共著)で、大地に踏ん張って生きている牧場のオヤジならではの骨太で魅力的な≪物語≫を書いている。
 「夢がいっぱい牧場」の展開――北海道での新規就農から六次産業化まで、のタイトルで綴られる63ページには、ほとんど裸一貫でやって来た十勝で牧場を築いてきた50年近い年月の汗と涙と牧草と牛のにおいに満ちた喜怒哀楽がいっぱいだ。
 飼育する牛を増やしていく過程での彼が見せるパワーと知恵、それを支え、時にリードする妻の芙美子さんとの二人三脚や地域の人たちに愛される人となりは、羨ましいほど。漁師泣かせの毒を持つオニヒトデを牛の糞尿と合わせて無毒どころか作物の発芽を促す人気の堆肥に変身させて「天使になった海のギャング」(名付け親は芙美子さん)として売り出したり、彼を慕って研修にやって来る若者も多く、その数は延べ1,000人を超える。中には、自殺しようと思い詰めてやってきたのに、牧場で一緒になった若者同士の語らいや子牛との触れ合いを通して生きること、生命について考え直した人もいるし、ここでの出会いが結婚につながったり、人生の進路を見つけた人もいて、夢がいっぱい牧場は、若者たちの貴重な出会いの場ともなっている。「農業は生命産業、人生の総合大学」と語る片岡さんの魅力あふれる内容である。